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【世界の武術】 第7回 日本拳法
前回さっぱりコメントがつかなかったので、さっさと次に行きます。
少林寺にはあまりなじみが無い人が多いのかね。
全然関係ないけど、やざきさんお元気ですか?


【日本拳法とは何か】

日本拳法は、柔道から派生した武道です。
空手や相撲の影響も受けています。

競技のルールは、
防具(面・胴・股当その他)とグローブを着けて、突き、蹴り、関節技を駆使して
勝敗を争います。総合格闘技に近い側面を持っています。

日本拳法の防具は剣道の防具をもとに考案されており、特に面が剣道そっくりです。
知らない人が見ると、竹刀を忘れた剣道かと勘違いすることがよくあります。

中央大学に在学していた知人に日本拳法家がいるのですが、
彼と話していたときに、
「友達に試合の写真を見せたら、『これ、なんの冗談だ?』と言われたよ」
と言って笑っていたことがありました。

日本拳法の試合
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ルールは防具の上から全力で打ち合う直接打撃制です。
道場の稽古では防具を使わない場合もあります。

日本拳法は自衛隊の徒手格闘の大会ルールとほとんど一致しています。
警察の逮捕術、警備員の護身術にも大きな影響を与えています。

また、実戦志向で有名な大道塾空道の大会において、
他流派では総合格闘技以外の選手がほとんど活躍できていない中、
唯一、日本拳法の選手だけは上位に食い込んできています。

日本以外にはほとんど普及していませんが、
日本拳法の上位選手には、総合格闘技、キックボクシング、ボクシングなどに
転向して大きな成果を出している選手も多く、今後も活躍が期待されます。



【日本拳法の歴史】

日本拳法は、1932年(昭和7年)に、関西大学出身の柔道家である、
澤山宗海によって創始考案されました。

澤山は、重さ70キロの鉄アレイを楽々と持ち上げるほどの怪力で、
腕は丸太のように太かったと言われています。

戦中は軍人として活躍し、戦後は新しい武道のために尽力しました。

澤山宗海
1906 ― 1977
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「新しきを知るも、古きを識らざるは、進歩にあらず。
 外に得るも、内に持たざるは、進取にあらず」


を合言葉に、日本古来の空手、柔道、相撲から
無駄な部分を取り去り、自由に練習する方法を考えました。

そして、突打蹴の博技(打撃技)に対して、防具を着装して、
安全に、かつ自由に打ち合う乱(らん)稽古によって、試合を可能にしました。
拳足の技に対する防具の創案は、有史以来初めてでした。

澤山はあまり経済的には恵まれなかったらしく、
自分の道場を持つことはできませんでした。

その代わりに、本を残そう。そして、温故知新の主旨のもとに、
東洋の古典と現代心理学、生理学等をアレンジして、拳法を科学的に究明しよう。
という考えの下、毎日新聞社から「日本拳法」という書籍を刊行しました。

それまでの古流柔術、伝統派空手諸派は、秘伝の技を見られるのを嫌がり、
柔道以外には、あまり良書がありませんでした。
そのため、このような打撃の技術に関して公開する姿勢は、
日本武道史に残る革命的な行為だったと言われています。

その後、澤山門下である森良之祐は東京で日本拳法を広め、
自衛隊の徒手格闘技制定に深く関わっています。

森は後年独立したため、現在の日本拳法は大きく分けて、
関西の拳法会系(+連盟系)、関東の協会系と呼ばれることが
多いようです(細かく言うともっと多い)。

森師範が、生前に講演されていたのを聴いたことがありましたが、
とても穏やかな、落ち着きのある話し方をされる先生でした。

武道精神とは流派に閉じこもることではなく、多くの人と拳を交え、
豊かに生きるためのものです、とおっしゃっていたのが印象的でした。



【日本拳法の技術 -殴って投げてまた殴る-】

日本拳法の看板技は、直拳(ストレートパンチ)と直蹴(フロントキック)です。
この技術は、形だけを身につけるなら、最も簡単な部類に入るでしょう。
ですが、これを徹底して磨くところが大きな特徴です。

さらに日本拳法には投げ技があり、とどめの突き、関節技があります。
要約して言うと、日本拳法の試合とは、殴って蹴って倒してまた殴る
というものだと言えるでしょう。

ある意味、もっとも見栄えを切り捨て、実を取った武道だと言えます。

日本拳法


なお、打ち合いについてはパシンと一発入ると得点、
というところが伝統派空手と似ています。

このため、フルコンタクト空手のように、殴り続け蹴り続け、という試合にはなりません。
伝統派空手の読みあいのような要素もあります。

以下は大会の様子です。




【日本拳法を習いたい】

日本拳法の道場は、関東圏と関西圏以外ではあまりありません。
大学の部活としても、大きな私立大学以外には見られません。

ただし、自衛官になると、ほぼ同等の技術を習うことができます。
警察官や警備員も、似たような訓練をすることはあるようです。

職業として格闘する人のためのもの、という側面が強いので、
趣味や体操代わりにいいかと言われると、なんともいえません。
やるからには覚悟を決めてやったほうがいいと思います。

日本拳法をやる場合、格闘技をやることとほとんど同義と考えたほうがいいでしょう。
重い防具を装着して打ち合うので、練習は、時に総合格闘技のジムよりハードです。

事故もゼロではなく、倒れて頭を打つなどもないとは言えません。
ただし、防具のおかげで、打ち身や骨折などは比較的少なくおさえられています。
無理を押して参加するなどは控え、出来る範囲で努力しましょう。



【日本拳法で戦う・日本拳法と戦う】

あくまで私の個人的な交流範囲の話ですが、
日本拳法の選手は総じて強いです。

特に、道場で防具をつけずに練習している選手は、
近代格闘技の選手と遜色ありません。

これは突く、蹴る、投げる、寝技の全てが競技ルールに含まれており、
かつ、曲芸のような技術が、体系から大胆に排除されているためです。
競技スタイルも、比較的現実的なシーンに近いものとなっています。

さらに、練習には体力や体格を要求しますので、
競技者の身体能力は、比較的高く維持されています。

一般に知られる格闘技的な武道は、フルコンタクト空手ですが、
フルコンタクト空手は近年、一般の人にもできるよう、
幅広い指導法を確立しつつあります。
また、手で顔を打たないという、実戦から離れた競技ルールとなっています。

これに対して日本拳法は、現在も先鋭的に職業生活で活かすことを
前提としており、むしろフルコンタクト空手よりも格闘技的です。

日本拳法の上級者と喧嘩や決闘をやる場合、苦戦はまぬがれません。

近代格闘技の上級者であれば、互角以上に戦える可能性は十分にあります。
ですが、他の武道家が勝てる可能性はかなり低いでしょう。

もし、ノールールで日本拳法と勝負するなら、自分の得意技に加えて、
最悪、目突きと金的蹴りも考慮したほうがいいかもしれません。

ただし、そもそも目突き金的は入りにくいものです。
練習を繰り返さないとなかなか入らないことは、重々承知しておきましょう。

余談ですが、以前、あるジャーナリストに、こう相談されたことがありました。
「すごく治安の悪い場所に行くことになった。何か、相当ハードでもいいから、
 とりあえず強くなれる方法を教えてくれ。
 そんな都合がいいものが、そうそうあるとも思えないが」


迷わず私は大学の日本拳法部を紹介し、そこで半年ほど、
週に4回、練習に参加してもらうことにしました。
あと、危険地域では戦うよりも逃げろ、と言って、毎日ダッシュをするように薦めました。

彼が飛行機に乗る直前、少し手合わせをしましたが、半年前までド素人だった彼は、
見事な前蹴りと突きを繰り出せるようになっていました。

数年前、久々に再開したとき、彼は真っ黒に焼けた手で握手を求め、私にこう言いました。
「日本拳法のおかげで、カッパライもカツアゲも一撃だったよ」

残念ながら、世の中には、まだまだ暴力沙汰が無くなってはいません。
どうしても強くなる必要がある人には、日本拳法の門戸が開かれています。



【次回予告】
次回は「躰道」を取り上げます。



【注記】
この記事は、喧嘩や決闘を奨励するものではありません。
また、武道をやることで、強くなることを保障するものでもありません。
暴力行為の結果は、状況や体調やその他の偶然によって、大きく変化します。
そして当然ですが、実際の暴力行為は法によって厳しく罰されます。

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by neo_logic | 2008-12-23 18:41 | 世界の武術
【世界の武術】 第6回 少林寺拳法
大規模な武道の紹介も終わりましたので、
今回からはより小規模な武道を紹介していきます。
縮小バージョンになりますが、変わらないご愛読をお願いします。


【少林寺拳法とは何か】

少林寺拳法は、護身術です。
その体系の中には突き、蹴り、投げ、関節技など、多くの技術が含まれますが、
「柔法」と呼ばれる、手首を極める関節技が看板技となっています。

かつては競技として、「運用法」の対人稽古を行っていましたが、事故が多く、
現在では組織だったトーナメントなどは行われていません。個別の道院
(少林寺拳法では、道場のことを道院と言います)や大学では、
慎重な指導のもとで、行うところもあるようです。

少林寺拳法の関節技
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道着の上から、法衣と呼ばれる仏門の服を着用することがあります。

少林寺拳法の特徴として、宗教法人登録を行っており、
宗教と密接につながっているというところがあります。

教義としては禅宗に近く、健康増進・精神修養・護身練胆の三徳を兼備し、
人々が平和で幸福な理想社会を実現する為の力を獲得するのが目的です。
どちらかというと宗教と言うよりも、社会教育団体に近いかもしれません。

かつては少年部の活動が非常に盛んでした。
2006年のデータでも14万人の現役拳士(門下生)がいるとあります。
海外にも普及しており、31ヶ国に道院があります。

非常に良く間違われますが、
中国の少林拳と、日本の少林寺拳法とは異なる武術です。
沖縄小林流空手道は空手で、少林寺拳法とは違います。
日本拳法と少林寺拳法も、全く異なる武術です。

また、金剛禅少林寺拳法と不動禅少林寺拳法がありますが、
本項で取り上げるのは、金剛禅少林寺拳法です。




【少林寺拳法の歴史】

少林寺拳法は、開祖である宗道臣が一代で作り上げた武道です。

宗道臣
1911年 - 1980年
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宗は戦前から戦中にかけ、中国(当時は満州)で特務機関の活動をしている際に、
各種の中国拳法を学びました。

敵国である日本人に中国人が武術を教えたというのは、
一見して奇妙に思えるかもしれません。

ところが、中国の達人たちは、宗に喜んで指導をしました。
当時の中国では武術訓練が規制されていたため、
弟子はおろか跡継ぎすらいない武術家も多かったからです。

これは中国有数の内乱である「義和団事件」の影響です。

銃や砲で武装した欧米の軍隊や政府の軍隊に対して、
中国の武術家たちは、義和拳という武術を使い、
素手や剣で頑強に戦い政府に恐れられ、活動を禁止されていたのです。

このため、当時の中国には実戦経験が豊富な武術家たちが各地に眠っていました。
宗は、この人たちから一心不乱に技術を学びました。

そして帰国後、宗は学んできた武術に日本の柔術を加味し、
少林寺拳法の技術体系を作り上げました。

焼け野原となった日本の青少年たちのため、
少林寺拳法は大きな志と共に発足したのです。



【少林寺拳法の技術 -千変万化の立ち間接-】

少林寺の看板技は、上述したとおり、立ち関節技、
特に手首や胸倉をつかまれた時の返し技です。

これらの技術は、見た目は合気道にも似ています。
ですが、合気道の場合は、「合気」という根本理念を中心に、
全ての技術が作られています。

これに対して、少林寺拳法の場合は、個別の技術が大量にあり、
それぞれに理屈があります。

そして、それぞれの技術は極めて具体的かつシンプルであるため、
比較的短期間で多くを身につけることができます。

拳士(少林寺拳法家)は、これら個別の技術を打ち合い、間接、止め、という、
一連の動作によって構成できるように指導されます。

熟達した少林寺拳法の動きは非常に流麗です。
大会などに行くと、目を疑うような早業を見ることができます。

特に、打撃から立ち間接への移行は、他のどの格闘技よりも俊敏でしょう。

少林寺拳法の演武


少林寺拳法の打撃技術は、他の格闘技とやや異なっています。
パンチやキックを使うところは、一見して同じなのですが、
他の競技格闘技に比べると、比較的腰を引いて、
速度を上げることを主眼においています。

ただし、伝統派空手のように引き足をとるわけではなく、
腰の力を使って打つ方法を指導しているようです。

目や金的といった、普通の競技では反則となるような
部位を狙うことを想定しているからです。
このような急所を狙うときには、大きな動作を減らし、無造作に打つ必要があります。

それ以外の打撃についても、ノックダウンを狙うだけではなく、
投げや関節技と組み合わせやすくできています。

打ち勝てるならそのまま打ち切ってしまう。
打撃で圧倒できないなら、素早く当てることで相手の攻撃を誘発し、
「このやろう、こっちもぶん殴ってやる」と、大きく打ち込んできたところを捕らえ、
関節を極めて制圧する、というのが少林寺拳法の典型的なパターンです。

つまり、格闘競技的な武道と比べて、打撃に対する思想が根本的に異なるのです。



【少林寺拳法を習いたい】

少林寺拳法は、学校の部活か、道院で学ぶことになります。
普及率は高くありませんが、地方にもあります。
本山が香川県にあるので、四国には比較的多いようです。

会費(月謝のこと)は、市民体育館の武道講座よりは高額ですが、
個人経営の空手や合気道に比べると、いくぶん安いほうです。

少林寺拳法には、運営する職員のみに給与が支払われ、
プロの選手や指導員がいないからです。これは組織の方針です。

入門する場合、少林寺拳法は宗教としての側面を持つので、
理念に対して敬意を払いましょう。
高額なお布施は必要ないし、奇妙な戒律もないので、それで十分です。

怪我には高い配慮が払われています。
また、老若男女をほとんど問いません。
少年部の活動は現在でも活発で、また、二代目の道主(館長)が
女性であるため、最近は女性の入門者が増えているようです。

障害者にも可能な数少ない武道であり、片腕の高段者もいます。

片腕で錫杖を扱う上田清


少林寺拳法を習うのに向いている人は、ずばり、「普通の人」です。

多くの武道には、「格闘要素」と「護身要素」が一緒に含まれていますが、
少林寺拳法はその中でも「護身要素」が強い武道です。

日本で普通に平穏な生活を過ごしたい、
でも、ちょっとだけ強くなっておきたいな、と思っているなら、
少林寺拳法に入門する事を考えてみるのは、いい選択だと思います。

ただし、護身と一言で言いますが、銃で狙われたときや、
暴動や戦争から逃げ延びるのに役に立つ、という意味ではありません。

あくまで、ちょっとしたいざこざで、役に立つことがあるかもしれない、
という意識で習ったほうがいいでしょう。
あらゆる状況を想定した「護身」は、時に決闘や喧嘩よりも難しいものです。

なお、一部ではありますが、少林寺拳法の門下にも、
高段者や大学の体育会主将などには、
競技的なルールでも、他の格闘技と渡り合える拳士(門下生)がいます。

どうしても少林寺で強くなりたいという場合は、
こういった人に個人指導を受け、上を目指していきましょう。



【少林寺拳法で戦う・少林寺拳法と戦う】

ここから先は個人的な意見です。

少林寺拳法は実戦でも有効でしょうか?


これは難しい問題です。
少林寺拳法は誰にでもできるし、すぐにたくさんの技術を身につけられるので、
喧嘩や格闘技などやったことがない全くの素人と比べれば、あっという間に強くなれます。

ただし、空手や柔道の猛者、あるいはキックボクシング、総合格闘技と
戦って勝てるかというと、どんなルールであれ、試合で勝つためには、
それ専用の練習をやらなければ難しいと思います。

少林寺拳法の技術をそのまま試合で使おうとしても、
試合の場合、目打ち、金的打ちは真っ先に反則扱いになるでしょうし、
衝突する力が弱いので、当たり負ける可能性が高そうです。

決闘や喧嘩のように、最初から全力でぶん殴りあうのが前提の場合も、
それなりに対処はできるでしょうが、かなり苦戦しそうです。
技術がうまくかからない場合、体力で圧倒されることもあるからです。

しかし、「じゃあ少林寺拳法は弱い」と言えるのでしょうか。

現実的に「身を守る」ということを考えた場合、
胸倉をつかまれたり、腕をつかまれたときの対処が、
個別の方法論によって確立されているというのは、大きな長所です。


私が学生時代、あるイベントの列に並んで、陣取りをしていたときの事です。
荒っぽい人がいて「おい、場所よこせよ!」と、ガラの悪い態度で
痩せたメガネの青年の胸倉をつかんできたことがありました。

ところが、ひょろっとした小柄なメガネ君は、
その腕を両手で取り、くるりと大柄な男をひっくり返してしまいました。


「イテテテテ」と言って、大男はその場を立ち去りました。

多分少林寺だな、と思い、流派を聞いたところ、
やはり大学の少林寺拳法部の二段でした。

少林寺拳法が最も役に立つのは、こういった場面や、
居酒屋とか電車で酔っ払いに絡まれたりしたときでしょう。
あるいはホストに強引に誘われたときとか。

そして、日常生活をすごす上では、それで十分です。
地上最強を目指すだけが、武道の命題ではありません。



【次回予告】
次回は日本拳法を取り上げます。



【注記】
この記事は、喧嘩や決闘を奨励するものではありません。
また、武道をやることで、強くなることを保障するものでもありません。
暴力行為の結果は、状況や体調やその他の偶然によって、大きく変化します。
そして当然ですが、実際の暴力行為は法によって厳しく罰されます。

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by neo_logic | 2008-12-21 01:20 | 世界の武術
【世界の武術】 第5回 合気道
【合気道とは何か】

合気道とは、相手の攻撃を受け流したり、攻撃の威力を利用して反撃する技術を
体系化、組織化した武道です。

多くの合気道は、身体を利用した円運動によって相手の攻撃を無力化し、
同時に死角を取って制圧する方法を指導しています。

競技としての合気道は限定されています。
特に、1対1で勝負する形式の稽古や試合は、めったに開かれていません。

多くの流派で行われている競技は、攻撃側の「受け」と、反撃側の「取り」に別れて、
技術の披露を行い、正確性や実戦性などを評価するという形式になっています。

合気道の演武

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日本の警察では、逮捕術として合気道を取り入れています。
男性の場合は柔道や剣道を選ぶことが多いようですが、
女性警察官の多くは、合気道を学びます。

日本のほか、ヨーロッパ、南北アメリカ、東南アジアなどでも人気で、
多くの合気道家が、日本の精神性と精妙な技術を習得するために汗を流しています。

統合組織である国際合気道連盟(IAF)は、1984年に国際競技団体総連合(GAISF)の正式会員となっています。そして、1989年から、オリンピックを補完する競技大会であるワールドゲームズ大会に毎回参加しています。



【合気道の歴史】

合気道は柔道と同様、古流柔術から派生した武道です。
歴史が長いため、最初に技術を作ったのが誰かは、よくわかっていません。

しかし技術的な体系を確立させたのは、
大東流柔術の中興の祖とも呼ばれた、武田惣角であると言われています。

武田惣角
安政6年(1859年) - 昭和18年(1943年)

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武田の二つ名は「会津の小天狗」。東北生まれで全国を放浪して技術を教授し、
その腕前から「近代最強の武道家」と呼ばれています。
柔道家、空手家、山賊、博徒との戦いは、多くの講談や小説になりました。

その後、大東流は合気柔術と名乗り、現在も東北以北を中心に、
多くの道場が開かれています。

武田よりも有名なのが、その弟子であり、
「合気道」という名前を最初に使い、「この手、千人力」と呼ばれた植芝盛平です。

植芝は軍人に合気道を教授し一躍その実戦性が認められ、
国内外を問わず、多くの分野で認められるようになりました。

非常に集中力が高く敏感な人物、また、
相手との間の取り方が絶妙な人物であったといわれています。

全盛期には、相手の動きが止まっているように見え、
どんな立会いも怖いと思えなかった、と語っています。

植芝盛平の模範演武


植芝は戦後、合気会を組織しました。
合気会は現在、合気道の最大組織となっています。

この植芝門下に、後に養神会を開いた塩田剛三がいます。
上の動画の最後で解説をしている方です。

塩田剛三は植芝以降、最大の合気道家であり、
現在でもその実力を評価されています。

特に有名なのは、昭和32年、アメリカの上院議員、
ロバート・ケネディ夫妻の前で行った演武です。

上述のような指導内容を見て「こんな技術が実際に使えるわけがない」と思った
ケネディは、同行していたボディーガードに命じ、塩田と手合せをさせました。
ところが一瞬で、ボディガードの体は畳の上に取り押さえられてしまいました。

この事実はテレビ放映もされたため、合気道の実力は広く知れ渡るようになりました。
以下はバラエティ番組で紹介された塩田の合気道です。



植芝系の合気道は、現在世界中に広まっています。
分派もいくつかあり、上述した「養神館」以外では、「心身統一合氣道(氣の研究会)」が、植芝系から派生し、広く普及している合気道です。
大学の部活などでは、心身統一合氣道が多いようです。

合気道は、その技術の華麗さから、フィクションの題材としても、
空手や柔道と同様に、頻繁に取り上げられます。

秋田書店のマンガ「グラップラー刃牙」では、
塩田をモチーフにしたキャラクターが活躍しています。

また、俳優のスティーブン・セガールなどによって、
カンフーと共に、アクション映像としての評価も受けています。

セガールの合気道


かっこいいなぁ。



【合気道の技術 -魔術か手品か-】

上述の映像を見てもわかるとおりですが、
普段、我々が目にする合気道は、とても華やかです。

小柄な女性や老人が大男を投げ飛ばし、
怪我一つなく倒せるというのは魅力的です。

しかし、実際に強靭な大男を相手にして、
このような技術がやすやすとかかるものか、
という不信感も同時に受けることが多いようです。

これに対して端的に結論を言いましょう。
合気道の技術は、実際の打ち合いにおいて有効です。
ただし、相手の体格や運動能力が優れている場合、かけるのが困難ではあります。
それと、実際には、あんなに派手に使えるものではありません。


合気道の稽古をするためには、技を受ける相手も上手に受身を取る必要があります。
その受身が、あのような派手な投げられ方になるのです。
映像で見られる合気道は、その稽古の再現に過ぎません。

したがって、暴漢が合気道家の胸倉をつかんでも、
鮮やかに宙を一回転して無力化されるという事はないでしょう。
地味に手首が折られるだけで。

また、相手の力を逆に利用するのが合気道だ、
というのもよく言われる話です。
なにやら深遠な言葉のようですが、この理屈自体は簡単です。

徒競走をやっている人の足元にピアノ線を張っておけば、勢いよく転ぶでしょう。

同じように、全力で突きこんでくる空手家に対して、
体をかがめて足元に滑り込めば、派手に吹っ飛んでいくでしょう。
つまり合気道には、相手の自爆を誘うような方法論がある、ということです。

もっといえば、「引っ掛け技」がかかる確率を、
できるだけ上げるよう、工夫してあるのが合気道なのです。

合気道はしばしば、「出来レース」「インチキ」「理屈倒れ」のように言われますが、
それは、個別の未熟な合気道家が原因です。

合気道を使いこなせる上級者の中は、
柔道家や空手家と伍して戦える人がたくさんいます。

合気道の道場では、相手の突きやつかみなどの攻撃行為に対して、
円運動を活かした「かわす」「関節をひねる」「投げる」という技術を練習します
(うまくかからない場合は、補佐的に打撃技を使うことがあります)。

この技術を集約した一連の動作を繰り返し練習し、体に染み込ませていくのです。

合気道は魔術でも手品でもなく、武道的な精神性を伴う戦闘の技術です。
それ以上でもそれ以下でもありません。



【合気道を習いたい】

大学生に人気が高いので、かなりの数の大学には合気道部があります。
大学生でない場合、個人道場で稽古するのがいいでしょう。

空手よりやや普及率は下回りますが、それでも相当の道場数があります。
特に関東圏で盛んです。東北以北は大東流の道場を探してもいいでしょう。

大東流合気柔術は、合気道に通じる技術が含まれています。

逆に中部以西の場合は、古流柔術が同じくらい盛んなので、
合気道と競合している場合もあります。
両者は似て非なるものなので、入会する際は注意が必要です。

入会費、月謝、道着代はほとんど空手と同額です。
年に何度か審査がありますので、これ以外に審査代が必要です。

なお、合気道はもともと大東流が殿中武芸であった影響で、
袴を着用することがあります。ヒザの動きを読まれにくい利点がありますが、
普段の護身には、あまり意味がありません。

着用は任意としているところが多いので、最初から袴を買う必要はありません。
意外と高額です(1万~2万)。

武道の中でも、合気道は怪我に対して高い配慮が払われています。
また、初心の段階から、筋力を要求されることはほとんどありません。

そのため、年齢や性別、素養をあまり意識せずに始められる武道でもあります。

「健康のためや身体操作の技術を学ぶために、なにか日本武道を始めたいな」
という動機があるのなら、合気道はとてもいい選択だと思います。
技術の意味を正しく理解して習得していけば、護身にも役立つでしょう。

一方、普段の稽古では技術習得が中心となりますので、
とにかく強くなりたい、という強烈な動機がある場合はおすすめできません。

合気道を通じて強い武道家になるためには、道場の稽古のほかに、
筋力トレーニング、ランニング、アタックトレーニング、スパーリングなどを、
個人的に練習しておいたほうがいいでしょう。
百発百中で合気道の技術を使えるとも限らないからです。

ただし、合気道でも一部に例外があります。
あまり広く普及している流派ではないものの、以下の流派では、
合気道の技術を競技化して、試合形式で技を掛け合う稽古を認めています。

日本合気道協会(富木流の正式名称)
合気道S.A.
フルコンタクト合気道覇天会


日本合気道協会は、短刀を模した短い棒を持った相手を取り押さえる競技で、
合気道の技術をそのまま実戦形式で評価するものです。
この流派では、柔道の技術から合気道を解釈しているという、珍しい特徴があります。

合気道S.A.と覇天会は、合気道の技術にフルコンタクト空手を加えて
競技化したような試合を開いています。
S.A.の大会はオープン制で、合気道の技術を活かして他流と戦うことができます。

これらの流派で稽古を積んでいれば、体力の向上や対人練習も
道場稽古の中で行うことができます。

合気道をやりたい、強くもなりたい! という方は、
これらの道場が近くに無いか、探してみましょう。

覇天会の試合


余談ですが、私は以前、覇天会の代表と軽くスパーリングをやったことがあります。
空手や柔道にはない独特の投げ技を受けて、驚愕したものです。



【合気道で戦う・合気道と戦う】

ここから先は個人的な意見です。

合気道は決闘や喧嘩などで、どう戦うでしょうか。

合気道の本質からすると、自分から積極的に合気道の技術をかけにいく、
ということはありえないでしょう。合気道は反撃に特化した技術だからです
(個別の合気道家が、自分の判断で攻撃することはあるでしょうが、
ここでは合気道の技術のみを使うとして、という話をしています)。

では、柔道や空手の技に対して、合気道の反撃は絶対に有効なのか。

これについてですが、合気道家は個人に実力差がありすぎて、
多々ある武道の中でも、最も一般論が言いにくいところです。

ただ、道場稽古を繰り返してどんなに高段位になったとしても、
それだけで実戦の実力者だとは言いきれない、と思います。

空手や柔道の場合、黒帯だ、何段だ、というのが、
ある程度は、強さのバロメーターになります。

これに対して、合気道は何段であろうが、強さとの関係がほとんどありません。

もちろん、技術を習得する過程で、運動することにはなるのですが、
本格的な体力トレーニングや対人格闘練習はほとんどやらないからです。
この点が、柔道や空手と大きく異なるところです。

というわけで、「うまくかかれば有効だ」と言うしかありません。

動体視力が良く、また集中力がある合気道家なら、
柔道や空手の技をとらえて制圧することもできるでしょう。

強いか弱いか、と言われると、日本刀や銃などの武器と同じで、
「ちゃんと使えれば強い」ということです。



【補足:合気道の意義】

個人的に、合気道が持つ最大の価値は、
相手に怪我をさせる確率が低いという点だと思います。

実際にあった話ですが、深夜の繁華街で女性と男性がもつれあっていて、
暴漢だと判断した空手家が、女性を守るために必殺上段回し蹴りを命中させ、
男性が死亡したという事件があります。

ところが、この男性は実は女性の知り合いで、
酔っ払っていたところを介抱していただけだったのです。

これは「勘違い騎士道事件」というむずかしい裁判の例として知られ、
今でも法律の判例集などによく取り上げられます。

このような場合、合気道であれば、心配することはありません。

もともと、自分から打ち込んだり投げたりすることは、本義では無いわけですし、
万が一、本当の暴漢であっても、大きな怪我をさせることなく、
制圧することができるでしょう。

日本武道の特徴として「自分も相手も怪我をせず、相手を倒せる」事を
重視するという点があります。合気道は、特にこの観点を重視しています。

この思想は、防犯や警備を行う上で重要です。
各国の警察官や警備員などが、訓練に合気道を取り入れているのは、
こういった長所があるからでしょう。



【次回予告】
次回は少林寺拳法を取り上げます。



【注記】
この記事は、喧嘩や決闘を奨励するものではありません。
また、武道をやることで、強くなることを保障するものでもありません。
暴力行為の結果は、状況や体調やその他の偶然によって、大きく変化します。
そして当然ですが、実際の暴力行為は法によって厳しく罰されます。

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by neo_logic | 2008-12-13 18:31 | 世界の武術
【世界の武術】 第4回 空手(その他)
およそ空手ほど、世界中に普及していながら、統一性のない武道も無いでしょう。
流派ごとに得意技が違うのはよくある話ですが、
競技ルールが、ここまで多様な武道は他に例がありません。

今回は、伝統派とフルコンタクト以外で、
かつ比較的普及している空手を見てみましょう。



【防具付空手】

防具付き空手のルールは、防具をつけた伝統派空手と考えればいいでしょう。
ですが、最大の違いは、防具をつけているので、全力で殴れるところです。

このため、伝統派のように軽い当て方だと、ポイントを取らないのが普通です。
むしろ、相当の強打でも、綺麗に入っていないと続行になります。

防具付空手の選手は、重い打撃を速く当てるよう鍛錬しています。
伝統派空手の選手よりも、一撃の威力は勝っているでしょう。

その一方、防具をつけることで、打撃に対する抵抗力や防御技術が養えない、
という問題点もあります。

硬式空手というのは防具付空手の一派で、ほぼ同じルールで試合をします。
見た目が似ていますが、日本拳法はまったく別の武道です。

防具付空手




【上地流空手】

上地流は伝統派空手ですが、極めて特徴的な空手なので、
あえてここで取り上げます。

上地流は流派の試合も開いていますが、それ以上に特徴的なのが部位鍛錬です。
手足の指先を徹底して鍛え、また、全身をぶん殴り、蹴っ飛ばして鍛えると言う、
古式の稽古を現在も行っています。

この稽古方法は見た目のインパクトがすさまじいため、
しばしば空手家の中でも驚異的な目で見られることがあります。

「人を打つのは暴力。打たれても痛くないのが空手」という思想があり、
ある意味では、武道の理想形であるとも言えます。

上地流の鍛錬


すげえ・・・・



【日本拳法空手道】

これは、伝統派空手の本部朝基の門下、山田辰郎が編み出した競技です。
フルコンタクト空手以前からある直接打撃制で、キックボクシングの基となりました。
あまり普及してはいませんが、歴史的な意義が高いのでここで取り上げます。

ルールはグローブをつけたノックダウン性で、
日本では、空手の技術にローキックを取り入れた最初の流派だと思われます。

相手に両拳の甲を向ける独特の構えや、
特殊な球形のサンドバックを使用することで知られています。
また、空手の通信教育を、最も普及させたという、面白い経緯があります。

現在の競技者は、ほとんどがキックボクシングで活躍していますが、
独自の鍛錬を行っている人も若干います。

なお、日本拳法と日本拳法空手道は違う競技です。

山田辰雄と本部朝基

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【新空手】

いわゆるグローブ空手です。
日本拳法空手道とは異なり、フルコンタクト空手から派生した流派です。

キックボクシングによく似ていますが、
空手着を着て、ロープの無いマットの上で競技を行います。

試合中に高い蹴りを出さないとポイントにならないという、
少し特殊なルールが特徴になっています。

新空手の道場は、事実上キックのジムと重なり合っています。
新空手の大会で上位の成績を出した人は、
キックのプロを目指す人が多いようです。

新空手の試合




【サバキ系空手】

サバキ系空手は、フルコンタクト空手から派生した空手です。
掴みからの打撃と投げ技を、全面的に認めた組手を採用しています。

サバキ系空手は、極真会館から独立した芦原会館の館長、
芦原英幸が提唱した「サバキ」と呼ばれる技術をベースとした空手です。

このサバキとは、相手の側面や背後に回りながら攻撃する技術で、
ポーランドの軍隊や愛媛県警に採用されていた時期があります。

実戦技術としては評価が高かったものの、サバキ系空手諸派は、
フルコンタクト空手の中では、あまり体格を養わないと言われています。

そのため、近年のサバキ系空手は、ふたたび
フルコンタクト空手やキックボクシングへ回帰する傾向も見られます。

サバキ系空手の円心会館は、米国で「サバキ・チャレンジ」という大会を開いています。

サバキ・チャレンジ




【空道ほか、総合格闘技系空手】

フルコンタクト空手の派生流派の中で、最も先鋭的に実戦を意識した流派が、
この空道と総合格闘技系空手です。
一般的には、大道塾とその分派である和術慧舟會、および禅道会を指します。

大道塾塾長である東孝は、「実践格闘」と「社会体育」の両立をめざして、
この流派を発足しました。

そして、東孝はさまざまな各国の武道と交流を深めて新しい武道を模索し、
自らの武道を、打撃を中心とする「空手」ではなく、
新しい総合格闘技である「空道」であると位置づけました。

一時期は極めて実践的と言われており、人気も高かったのですが
現在は安全性を考慮してプロ競技から離れており、
知名度はあまり高くないようです。

試合ルールは、スーパーセーフと呼ばれる面をつけた直接打撃制ですが、
加えて、投げ技や寝技も限定的に認めています。

また、大道塾の大会である「北斗旗」では、
体格差がある場合、金的攻撃が認められています。
大規模なオープン大会で金的が認められているのは北斗旗だけです。

稽古はかなりハードで、しばしば、フルコンタクト空手より過酷だと言われます。
試合ではスーパーセーフの上からの打撃で効果を与える必要があり、
活躍するためには、優れた身体能力を必要とします。

もっとも普及しているのはロシアで、大学の体育課程に取り入れられ、
競技者は3万人を越えています。日本にも1万人の門下生がいます。





このほか、本部御殿手、拳道会、心道流空手、無門会空手なども、
それぞれ独特の技術、練習法、試合を行っています。

今回取り上げた空手諸派は、伝統派やフルコンタクトの空手と比べると、
必ずしも普及しているとは限りません。習いたくても、近くに道場が無い場合もあります。

比較的近いルールの空手をやっておいて、
機会があればこちらを始めてみる、というのがいいでしょう。
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by neo_logic | 2008-12-08 21:18 | 世界の武術
【世界の武術】 第3回 空手(フルコンタクト)
前置き・・・

世界の、と言っておきながら、日本ばっかり出てきますが、
とりあえず10回くらいまでは日本の武道を取り上げることになるかと思います。
ご容赦くださいませ。



【フルコンタクト空手とはなにか】

フルコンタクト空手とは、主に突き蹴りによって構成される武道です。
打撃技術が主体となっている点は、伝統派空手と同様ですが、
その競技ルールや格闘技術は、伝統派空手とはかなり異なっています。

競技としてのフルコンタクト空手は、1対1で、
お互いに素面、素手、素足で全力で突き、蹴りを当て合い、
どちらか一方が倒れるまで戦うルール(直接打撃制)を採用しています
(防具を使うこともあります)。

同種の競技は、戦前から琉球や日本、アメリカ、韓国にもあったものの、
一般的にフルコンタクト空手という場合は、昭和40年前後から急速に発達した、
大山倍達を創始者とする「極真会館」の試合ルールをベースとしています。

フルコンタクト空手は流派という概念を持たず、
その技術もフルコンタクトルールに合わせて発達してきました。
そのため、伝統的な型をあまり重視しません。
現在は、日本を始め、ブラジルやオセアニアなどで、多くの選手が活躍しています。

大会はそれぞれの組織ごとに開かれており、統一された大会はありません。
しかし多くの大会はオープン参加を認めており、
さまざまな道場の門下生が、相互の大会に参加し、実力を競い合っています。



【フルコンタクト空手の歴史】

戦前に日本へ伝わった空手は、組手稽古の実施に慎重で、
試行錯誤の後に、剣道のルールを基に「当て止め」ルールを確立しました。

しかし、実際の道場稽古は全力で殴りあうことがほとんどだったため、
それをルール化したいと考える空手家も多くいました。

特に、剛柔流は伝統派の中でも接近してからの乱戦に強く、
松涛館流の、すり足で間合いを計り、隙をついて一撃の大技を繰り出す組手とは
大きく異なった技術を持っていました。

戦後、剛柔流正派は、
型に接近戦技術を残し、組手は全空連に近い方式を採用しましたが、
一方で、剛柔流の山口剛玄門下である大山倍達は、
全力で打撃をぶつけ合う直接打撃制ルールを模索していました。

大山倍達は、空手家の中でもタフネスに長けていたと言われています。
また、極めて握力が強い人物で、握力で硬貨を曲げることができたそうです。

大山は昭和30年に剛柔流から独立して大山道場を立ち上げ、
さらに昭和39年には極真会館を発足。

昭和44年には念願のフルコンタクトルールで大会を開き、
これはメディア戦略が功を奏したこともあり、大きな人気を得ました。

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手刀でレンガを割る大山倍達


極真会館からは、その後新たなルールを模索する門下生たちによって、
さまざまな分派が生まれました。

その中で、正道会館を立ち上げた石井和義氏は、
フルコンタクト空手の人気を活かし、キックボクシングとの融合を目指して
「K-1」を開催しました。

「K-1」は現在も年末のテレビで放映され、人気を博していますが、
その背景として、フルコンタクト空手は大きな影響を与えていたのです。



【競技のルール】

フルコンタクト空手のルールは、
大会を開催している組織ごとに若干ながら異なっています。

そのため、ここではそのベースとなった、
平成元年ころの極真会館世界大会で採用されていたルールを紹介しましょう。

このルールでは、競技者は素面、素手、素足を用いて
突きと蹴りの打ち合いのみで勝負することとなっています。
金的、背中への攻撃、掴むこと、および手による顔への攻撃は禁止されています。

3分の試合時間中にダメージを与え、相手がすぐに立ち上がれなかった場合、
「一本」となり勝敗が決定します。それに準じる「技あり」は2つ取れば一本となります。

決着がつかなかった場合は判定になり、
判定で決着がつかない場合、2分の延長戦が行われます。

これが極真の試合だ。


また、フルコンタクト空手では、普通の大会とは別に、昇段審査などで、
一人の人間が次々に別の相手と対戦する「連続組手」という稽古があります。
昇段の要件が10人組手となっている場合も多く、達成するのはかなり困難です。

このため、フルコンタクト空手の有名流派で初段を取るには、
他流派の二段相当の稽古が必要となる場合があります。

極真会館の「100人組手」は、あらゆる武道、武術の中でも
最も過酷な荒行と言われ、これを達成した選手は10人もいません。



【フルコンタクト空手の技術と選手 -恐るべきローキック-】

フルコンタクト空手では、ノックアウトのために、累積的なダメージを与える必要があります。
そのため、上手に当てるための駆け引きよりも、
前に進む力(これを「当たり強さ」と言います)が重要な要素になります。

この力をベースに突きと蹴りを絶え間なく繰り出し、
チャンスがあれば、ハイキックなどの大技につなげます。

当然、相手も同じ戦術を使ってきますので、
少々打たれても倒れないため、打撃に対する抵抗力
(これを「打たれ強さ」と言います)をつけていきます。

かつてのフルコンタクト空手では、この二つの要素が
判定の材料にもなっていました(前に出ていた方が勝ちとなる)。
この過酷な試合は、スポーツとしてはあまり受け入れられず、
「押しあい空手」「ガマン大会」と揶揄されることが多かったようです。

しかし現在では、当てる技術とその威力を重視する判定方法をとる場合が多く、
ヒット&アウェイを利用した戦術も発達して来ています。

ヒット&アウェイを得意とする、ギャリー・オニール選手


フルコンタクト空手の看板技は、相手の太もも、ないしふくらはぎを
自らの脛で蹴る「下段回し蹴り(ローキック)」です。
フルコンタクト空手の選手は、例外なくこのローキックに特化した練習をしています。

技術自体を習得するのは比較的容易で、
しかも極めて地味な技ですが、効果は抜群です。

フルコンタクト空手のローキックは、以下の動画がわかりやすいと思います。
数分間の試合の中で、足を蹴って徐々にダメージを与え、ノックダウンしています。


「フルコンタクト空手は、どちらが勝っているのかイマイチわからない」
と言われることがありますが、両選手の足に蓄積されたダメージを見ることで、
ぐっと競技を理解しやすくなるでしょう。


フルコンタクト空手の欠点としては、
手による顔への打撃が無いという、ルール上の問題があります。

このルールのため、蹴りの技術は大きく発達したのですが、
ノックダウン制の競技でありながら、顔をあまり防御しないという、
近代格闘技としては特殊なスタイルが普通となっています。

また、突きの技術それ自体が、効かせるというよりも
相手の動きを制止させて、蹴りにつなげるためのものなので、
他の打撃格闘技に比べると、あまり優れているとはいえません。

フルコンタクト空手の長所は、圧力とタフネス、そして
ローキックを始めとする蹴りの技術にあると言えるでしょう。

フルコンタクト空手の選手として、現在、極真空手松井派の館長である
松井章圭を取り上げます。以下の動画をどうぞ。
注:この動画では普通のルールと異なり、転ばし下段突きが認められるものを含んでいます。

百人組手の様子が見られます。50人以降の松井さんの表情、こええ・・・



【フルコンタクト空手を習いたい】

フルコンタクト空手は、学校や会社の活動となっていることはほとんどありません。
習いたい場合は、インターネットや電話帳で道場を探してみましょう。
市民体育館やスポーツジムがある市町村であれば、習える可能性はかなりあります。

必要なものは、空手着のほかに、防具がいります。
素面、素手、素足でやるのは上級者の大会のみで、
普段の稽古や新人戦では、拳や足を保護するサポーターを使うためです。

フルコンタクト空手はある程度の体格を要求します。
筋力トレーニングと縁がなかった人は、
腕立てや腹筋をやって、体を鍛えておきましょう。

打ち身は前提なので、そのつもりで入会しましょう。
さすがに骨折するまで稽古する道場は、今はほとんどありませんが、
常に足や胸にアザができることは覚悟しなければなりません。

なお、フルコンタクト空手の武術要素と異なる問題点として、
意外とお金がかかるという点があります。

これは、学校や財団から給料が出ないため、
たいていは道場主の個人経営となっているためです。
入会に1万、道着と防具に1万、月謝に1万、
三ヶ月に一回の審査に1万、三ヶ月に一回の試合に1万とかかる場合もあります。

道場によっては、指導がしっかりしていない上、お金だけかかる事になりかねません。
できれば評判を聞いておくといいでしょう。
極真会館や正道会館の大道場であれば、まず大丈夫だと思います
(極真会館は、現在多くの派に分かれています)。

なお、女子の場合は、そもそも打撃に使う筋肉の量を増やすのが難しいため、
打撃による怪我は、男子よりも比較的少なく抑えられます。
それでも、ある程度の打ち身はするものだと思っていたほうがいいでしょう。



【フルコンタクト空手で戦う。フルコンタクト空手と戦う】

ここからは個人的な意見です。

フルコンタクト空手は決闘や喧嘩で、どのように戦うでしょうか?
今回は仮想対決ではなく、フルコンタクト空手の特性を意識して、私見を述べます。

フルコンタクト空手は、他の武道・武術と比べて、フィジカル(体力)を重視します。
未知の相手に対して、フィジカルで優れているというのは圧倒的に有利です。

フルコンタクト空手の人間が実際の喧嘩・決闘で戦う場合には、
このフィジカルを活かした戦法を取るべきです。

試合とは異なるので、上段をガードし、金的を守るためにやや半身を切る必要はありますが、
基本的には速攻で試合を決めるときと一緒で、一気呵成に攻め落とすべきです。

試合でよくある、間違って上段を突いてしまうことは、
まったく心配しなくてもかまいません。
高めの突きを繰り出せる分、むしろ試合よりも楽かもしれません。

ペース配分も考えず、最初から全力で突っ込み、
相手が何もできないうちにしとめてしまうべきでしょう。

言い方をかえれば、上段と金的のガードさえ意識すれば、
フルコンタクト空手は多様な相手に対応できるということです。

では、フルコンタクト空手の選手を相手にする場合はどうするべきか。

多くの武道・武術はフルコンタクト空手ほどフィジカルを鍛えず、
どちらかというとテクニックやスピード、タイミングを重視しているでしょう。
それ以外のスポーツでも、タフネスを鍛えることはほとんど無いはずです。

これに対して、フルコンタクト空手の上級者が繰り出す、突きとローキックの連打は、
実際に対峙してみるとわかりますが、強烈な圧力があります。

このため、秘伝の奥義も綿密な作戦もむなしく画餅と化し、
体力と威力で一方的に圧倒されてしまう可能性もあります。

このような負け方をすると、外傷や痛みなどの後遺症よりも、
むしろ精神的にショックを受けてしまうことがあります。
自分の努力が無駄だったような気がしてしまうからです。

フルコンタクト空手を相手するには、自分の持ち味を理解し、
あまり凝った事を考えず、ひたすら得意技をぶつけるのがいいでしょう。
特に、上段突きと投げ技、寝技がある競技であれば、迷わずそれを使うべきです。

たとえば柔道であれば、組手争いなどせず、まっすぐに突っ込んで組み合い、
即座に投げと寝技へ移行することで勝つことができるでしょう。

伝統派空手の場合は、顔の中央を狙い、当てたら素早く引くことで対応できるでしょう。
上手に誘導できれば、遠間から一方的に打ち勝てる可能性もあります。

フルコンタクト空手を相手にするときは、とにかく自分の領域に巻き込むことが重要です。
ためらったり迷ったりしていると、怒涛の連打を食らい、
あっさりトドメを刺されてしまうでしょう。



【次回予告】
次回は空手(その他)を取り上げます。



【注記】
この記事は、喧嘩や決闘を奨励するものではありません。
また、武道をやることで、強くなることを保障するものでもありません。
暴力行為の結果は、状況や体調やその他の偶然によって、大きく変化します。
そして当然ですが、実際の暴力行為は法によって厳しく罰されます。

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by neo_logic | 2008-12-03 23:45 | 世界の武術