このシリーズを再開するかは、ずっとためらいがありました。まず私の生活がここ一年ほど安定しておらず、武道から離れた生活をしていたためです。またこうした記事を書くとどうしても偏りが出る、というのもありました。ですが、このブログの中でも本シリーズは評判が良かったので、これからも月に一度くらいのペースで書くことにします。【テコンドーとは何か】テコンドーは韓国・北朝鮮の国技です。漢字で跆拳道と書きます。
競技人口は多く。柔道よりは少ないものの、空手より多いのでは、とも言われています。
韓国朝鮮以外では南北アメリカで盛んです。北米だけでなく、メキシコやベネズエラなどにも選手は多いようです。次いで東・東南アジア各国、ヨーロッパ各国にも普及しています。
主戦力は足技で、蹴りの種類は普通に使われるだけでも10種類以上、上中下段ごとに分ければ、さらに多くなります。世界的に広まった競技の中で、最も多彩な蹴りが用いられる武術です。別名は
「足のボクシング」です。
【テコンドーの歴史】歴史的には沖縄の松涛館空手が日本本土に伝わった際に、空手を学んだ韓国・朝鮮の出身者が始めたといわれています。その後、テコンドーは中国武術や韓国朝鮮固有の武術からも技術を取り入れ、スポーツとしてだけでなく、軍事格闘技・護身術・体操としても広く認められるようになりました。
武術としてのテコンドーに貢献した人で特に有名なのは、韓国陸軍少将の崔泓熙(チェ・ホンヒ)です。
崔泓熙
1918 - 2002彼は戦争中に日本に渡り沖縄の船越義珍から松涛館空手を学び、日本の軍人として従軍しました。戦中に日本軍に対して決起し投獄されたものの、終戦後は韓国軍創立員の一人として軍に復帰。朝鮮の古流武術「テッキョン」に沖縄・日本の空手を組み合わせ、独自の武術・格闘技を模索しました。
チェがテコンドーを作るに当たり、特に重視したのは「回転」です。「突進を軸にした戦術は体重によって勝敗が決まってしまう」と考え、「重い相手に対峙するには速度を上げる必要がある、それには回転しかない」としました。テコンドーの技術はここで大きな変化を遂げたため、空手や中国拳法とは全く異なる技術体系を持つようになりました。
「回転」は東アジアの武術思想的にはきわめて画期的で、空手や中国武術諸派はこの研究が遅かったため、格闘技の世界で後塵を拝したと言われています。すでに1950年代には、ボクシングやムエタイは腰の回転を生かした格闘技として完成していました。テコンドーはこの技術を吸収して追い抜くことで、古流の伝統武術から近代格闘技・軍事格闘技へと変貌できたのです。チェの発想は大英断であり、そして大正解でした。
現在では、打撃を用いるほぼすべての格闘技が「回転」の技術を用います。その中でも、最も「回転」を活用したメジャーな武術はテコンドーとなっています。
80年代以降、韓国軍と米軍との合同演習を通じてテコンドーはアメリカに伝わりました。帰国した海兵隊らがテコンドーを披露すると、見た目も華麗でスポーツとしても優れているということで爆発的な人気を誇りました。90年代に入ると、アメリカの空手道場は次々にテコンドー道場になってしまったという話もあります。
現在のテコンドーには大きく分けてITF、WTFという二つの団体があります。WTFはIOCに登録され、オリンピックの正式競技となっています。打撃武術でオリンピックに入っているのは、テコンドーだけです(※1)。
※1:このシリーズでは、ボクシングは武道というよりもスポーツであるとしています(解釈によっては武道ともいえますが)。また、厳密には太極拳もあるのですが、打ち合う競技ではないので書きませんでした。なお、空手、合気道、キックボクシング、総合格闘技はオリンピック競技ではありません。
【テコンドーの技術 -華麗なる足技-】テコンドーとは蹴りです。蹴りこそテコンドーです。
テコンドーの映像を見てみましょう。
競技としてのテコンドーは、とにかく蹴りをたくさん当てたほうが勝ちです。
当てる部位は中段(腹部)と上段(頭部)です。ほとんどのルールでは下段がカウントされないため、ローキックの打ち合いになることはありません。
ガードされるとポイントにはなりません。
あたっていれば強弱は(それほど)問われないので、威力よりもスピードが重要です。
ノックアウトもルール上は一応あるのですが、上位の大会でないとKOシーンは少ないようです。
試合によっては、高い蹴りや複雑な蹴りには高い点数がつきます。このためテコンドーの試合は素人見にも華やかで格好よく、人気があります。
WTFでは顔へのパンチは反則です(ITFは有効)。パンチの連打は点数になりません。
クリンチはやってもいいのですがあまり意味がありません。たいていは相互にお互いの体を押し合って離れ、打ち合いなおします。
日本のジムや道場では、試合を前提とした練習が多いようです。高い蹴りを出すため、柔軟体操にはたっぷり時間を取ります。次に、ミットトレーニングに大きな時間を割きます。そして、マッソギ(組み手)を数多くやります。
防具をつけて軽く当てるルールであるため、普通の格闘技に比べると打ち身や骨折は多くありません。そのため、組み手に多くの時間を割けるという特長があります。また上段蹴りを多用するため、柔軟性が必須です。このため打撃格闘技では珍しく、女性の競技者が多いという性質があります。
空手のように伝統的な基本稽古や移動稽古もやりますし、型競技もあります。ただ、韓国朝鮮ではわかりませんが、日本の道場ではそれほど重視していないようです(テコンドーの普及に伴い変化していくかもしれません)。
軍事格闘技としてのテコンドーや護身術としてのテコンドーは、競技テコンドーとはかなり異なっています。これは空手など他の武術と同様です。
テコンドーでは、派手なデモンストレーションがよく見られます。
空手の試割りでは硬い、重い、大きいものを割ろうとするのに対し、テコンドーではスピードや跳躍力などを駆使したアクロバティックな動きを披露するものが多いようです。
人間業と思えません。
以前私がロンドンで見た「インターナショナル・ブドー・フェスティバル」では、韓国代表団は半分に切った土管を駆け上がり、4メートルの高さの板を割るというのを実演していました。他にアジアやアメリカやヨーロッパも出ていたのですが、韓国がぶっちぎりの団体優勝でした。体操選手やサーカス団に匹敵するレベルです。
【テコンドーを習いたい】テコンドーは90年代以降に日本でも普及し始め、全日本大会も開かれています。
ですが都市以外だとまだまだ少ないです。大学には増えてきたようですが、中学高校ではまず習えないでしょう。ボクシングジムを間借りしたり、市民体育館を借りている団体を探してみましょう。
テコンドーが習えない場合はどうすればいいでしょうか。比較的類似している普及競技はフルコンタクト空手またはキックボクシングですが、それよりも体操や新体操などをやるのをお勧めします。スタミナや瞬発力が重要なので、短距離系の陸上競技もいいと思います。機会があったらテコンドーを習うのがいいでしょう。
柔道やレスリング、ボクシング、中国拳法、伝統派空手、合気道には類似点はほとんどありません。野球とサッカーくらい違うと考えていいでしょう。空手や中国拳法をやるのはむしろ害になる場合もあります。見た目は似ている部分もありますが、動作の機微が大きく異なります。
【テコンドーで戦う・テコンドーと戦う】テコンドーの運動はとても激しいので、全般的な身体能力を大きく向上させます。また、蹴りは人間の出せる技術の中でも大きなダメージを与えられる技術です。護身や決闘やケンカにも役立つ可能性は高いでしょう。
ただし、組み付かれたりすると無力です。また、普段の稽古ではノックダウンを前提としない場合が多いので、打撃が浅くなる可能性があります。フルコンタクト空手やキックボクシングのように、打撃に厚みや重みをつけないと、他の格闘技と戦うのは辛そうです。
また、そもそも護身や決闘でテコンドーを使う気になるか? というのも大きな問題です。
口論になって思わず手が出たというのは良く聞きます。ですが、思わず足が出たという話はあまりありません。人間はまず出るのはパンチで、キックではないのです。テコンドーでケンカに強くなるには、かなりの度胸が必要なようです。逆に、ケンカばっかりしているような人がテコンドーをやれば、それこそ無類の強さになるでしょうが。
次に、他の格闘技がテコンドーとどう戦うかです。
理屈の上では、蹴りを防いで組み付き、ひねり倒すか顔を殴るということになるでしょう。
蹴りの防御技術というのはそれなりにどの格闘技にもあるので、それを習うのが一番簡単でしょう。
妙な言い方かもしれませんが、テコンドーはきわめて普通の打撃格闘技です。層は厚く、強い人も弱い人もいます。そして、他の格闘技を併行してやっている人も多くいます。もちろんプロパーのテコンドー家も、特に韓国朝鮮にはたくさんいるでしょう。ですが日本や他国の場合だと、他の武術・格闘技もやっていたり、転向してきたりしていったりする人がかなり多いようです。
そのため、単一の格闘技としては強いとも弱いとも言いがたい部分があります。すごく現実的な話をすると、テコンドーをやっている人と戦う場合、テコンドーがどういう競技かよりも、その人がどういう人かを考えたほうがいいでしょう。
なお、テコンドーで本格的に強くなりたいなら、やはり韓国か米国に行くのが近道でしょう。元海兵隊員などが開いた道場で実力を保証されれば、相当の実力者だといえるでしょう。
【次回予告】次回は「ムエタイ」を取り上げます。
【注記】
この記事は、喧嘩や決闘を奨励するものではありません。
武道をやることで、強くなることを保障するものでもありません。
暴力行為の結果は、状況や体調やその他の偶然によって、大きく変化します。
暴力行為は法によって厳しく罰されます。